運動のやり方に正解はない、各々自分の心の赴くままに道を歩むべし!・・・とはいえ、ある程度道筋が見えていると安心しますよね。今回は「Be with Ayano Anzai」と「大学のハラスメントを看過しない会」の裁判の進行や運動の方法を比較しつつ、被害者・支援者の思いや苦悩を明らかにすることで、現在運動をしている方・今後運動を起こそうと思っている方への参考になればと、両団体でおしゃべりした様子を公開します。

(聞き手 深沢レナ)

 

【Be with Ayano Anzaiとは】
 
 Be with Ayano Anzai(以下、Be with)はK氏および合同会社C社(以下C社)から受けたハラスメントを公表し、現在二つの裁判の係争中である安西彩乃さんの支援団体。2021年2月の団体発足後、裁判や被害回復の支援に加え、現在進行中の裁判の経過の記録・公開を続けている。問題解決までのプロセスを類似の問題の当事者や支援者、その周りにいる人々に手渡し、共有知とすることを目的に当団体ホームページ上での情報公開を行なっている。

 

【今回お話しさせていただいたのは…】
 
・安西彩乃さん
・関優花さん…Be with 代表
・古賀茜さん…副代表
・中村奈央さん…会計担当

 

【出来事の簡単な経緯】 

2019年5月 安西さんはC社で働き始め、その直後から、上司であるK氏から繰り返しセクハラを受けるようになる。
 
2020年5月 K氏と安西さんの間に性的関係があることがK氏の家庭内で発覚し問題となる。K氏は安西さんにC社を辞めるよう要求。
 
2020年6月 K氏との直接のやりとりに限界を感じた安西さんは、C社の他メンバーに相談。「会議」が開かれたものの、C社側からは自主退職しなければ解雇するとして自主退職を強く勧められる。 
  
2020年7月 K氏やC社のメンバーが他の評論家や美術家と連盟で差別反対アクションに参加しているのをみた安西さんは、Twitterでその違和感や苦痛を吐露。C社と業務委託契約を結んでおり、その業務上で安西さんの雇用主であったG社が、安西さんのツイートを見て心配し、安西さん・C社の双方より事情を聴取。C社側が調査への協力を拒否したため、両社の業務委託契約が解除された。その後、C社側はHPにて「パワーハラスメント行為が行われたことを確認」したという旨を発表したものの、K氏以外の責任は明示されず。
 
2020年8月 安西さんは一連の出来事を告発する内容の記事をnoteに公開(*参照)。C社側は安西さんに対し直接謝罪の連絡等を行う。
 
2020年10月 当初は認められていた社内でのハラスメント行為をC社側が撤回。さらに安西さんに「不法行為となりうる複数の問題行為」があり、告発文は虚偽だとして、安西さんとnoteの運営会社を名誉毀損で提訴(*訴訟1)。なお、その問題行為の内容はいまだに明らかにされていない。
 
2021年2月 安西さんがC社やK氏に対し提訴(*訴訟2)。退職勧奨などのパワハラがあったとして慰謝料を求めている。
 
*公開されているBe With Ayano Anzaiのサイト・書面を参照している
https://bewithayanoanzai.cargo.site/Home

 

 

裁判の近況報告——これからどっちも尋問です

 

(※ このインタビューは2022年3月に行われたものです。両団体、裁判の過大な負担により公開が遅れました。一部、情報が最新のものとは異なる部分がありますが、そのまま掲載することとします。)

 

——今、安西さんの方は裁判どんな感じですか?

 

安西 わたしの場合、まず2020年10月にC社から名誉毀損で訴えられて(*訴訟1)、そのあとにわたしが彼らを労働訴訟で訴えていて(*訴訟2)、今は2件の訴訟が別々に進行中です。名誉毀損訴訟の方が半年前に始まっているけれど、わたしが訴えた労働訴訟の方が進んでいて、次回尋問です。

 

——あ、そうなんだ。

 

安西 そう。労働訴訟はすでに全員の陳述書が提出されていて、次回6月2日に尋問をやります。午前中にわたし、午後に被告側3人の尋問をやって、その日はそれで終わりです。

 

——疲れますね〜。

 

安西 長いですよね。でも順番が先でよかった!

 

 当日はみんなでおしゃれして行こう。

 

安西 レナさんは尋問もうすぐですか? 

 

——わたしももうすぐですが、今は誰を証人にするか審議している段階で、6月に決定されます。

 それと今は、最後の陳述書を作成中で、それが大変ヘビーで。

 

 安西さんも陳述書膨大だったもんね。最終回感があるというか。

 

——やっぱ最後の陳述書すごいことになりますよね。超大変。

 

 最初から最後まで書くからね。

 

安西 でも、被告のうち現在もC社に属する2人の陳述書は2〜3ページしかなかった。彼ら、この陳述書に限らず、どっちの訴訟でも訴訟書面の提出期日を絶対に守らない。

 

——それも小さな嫌がらせですよね。

 

安西 本当ですよね。彼らの書面が期限内に提出されれば次の回の訴訟で話せたはずのことが、期限を超過して当日に提出されたために話せなくて次回、ということが何度もあった。

 

——いろいろひどいな。

 

安西 しかも、C社の訴訟書面、女性蔑視だけは詳細に書いてある。反対尋問が憂鬱…。

 

 「#MeToo運動にかこつけて安西は・・・」(*参照〈訴訟1〉準備書面8

 

——「かこつけて」とか言うの!? 「かこつけて」ってなに!? 

 

 この書面、声に出して読んでみてほしい。 

 

 

 

中立の立場の人たちへ——とりあえず書面を読もう

 

安西 C社は2020年7月にハラスメントを認めて謝罪したあと、わたしがnoteでテキストを公開してからも、公にはずっと黙っていたんですね。水面下ではわたしに謝罪して和解交渉を持ちかけてきたけど、解決に向けた具体的な提案は何もなく、わたしがいろいろ提案すると返事が返ってこなくて。そんな状態では和解は成立し得ないと判断してわたしから交渉を打ち切ったら、しばらくしてC社から名誉毀損訴訟を提起したとリリースが出ました。 

 彼らは一度した謝罪を撤回したり関係者に弁明メールを送ったり、一貫性のない対処でこの問題をやり過ごそうとしてきた。そういう人たちが尋問という場で喋らざるをえない状況になったのはいいことだと思います。

 

 裁判のせめてもの良い面。

 

安西 彼らが黙っているからって「両方の意見を聞かないとわからない」と中立的な立場を取る人たちとかいた。

 

——いるよね。そういう人たちがね。

 

安西 わたしと彼らの立場はそもそも非対称なのにね。中には「裁判をやる権利は誰にでもあって、彼らは今裁判やってるんだから、周囲も安西も結果が出る前にいろいろ言うなよ」という人もいたけど、権利の話をするなら、裁判やってても喋る権利がわたしにはあるよ。人の行動を制限しようとするの、おかしい。そういう人は、わたしが勝訴したところで文句を言い続けると思う。

 

——きっとね。

 

安西 裁判では双方の主張や証拠をもとに事実認定をして判決が下されるのだから、裁判の判決を重要視するのと同じだけ、判決が導き出されるまでの過程も重要視してほしい。そのために訴訟の経緯や訴訟書面の公開をしていて、それらの情報に多くの人が関心を持ってくれていることに希望を感じます。逆にいえば、経過を重視せずに最終的な判決だけを受け取るという姿勢でいるのは、自分の判断基準を持たずに裁判所の判断だけを倫理の基準にするということ。それは受動的すぎる!

 

 K氏もC社側も訴訟書面は出しているわけですから。私たちのHPでは彼らの書面も公開しているので、彼らの主張も読めます。

 

安西 「あなたは問題をどう見てどう思ったんですか?」と問える形にしていきたい。

 

――裁判官は法律の専門家ではあるけれど、判断は社会通念の変化にも影響されるから、そのときの結果が普遍的に絶対というわけじゃないですからね。それぞれの書面を読んでどう受けとめるかは、誰でもその人なりの経験や感覚に基づいて考えていいんだし、一人一人がどう思ったか、その集積が社会通念ということにもなるわけで。

 とりあえず中立っぽいこと語る人って、「じゃあその後も書面とか記事とか読んでますか?」っていうと大抵してないんだろうけど、ちゃんと読んでみてほしい。そういう地味な作業なしに正論が語られててても空疎で、「あなたの身体はどこにあるの?」というのがわたしには見えなくて虚しくなる。

 告発すると、いろんな言葉が周りに溢れますよね。

 

安西 問題が発覚した直後はいろんな反応があって。公表された情報をもとに思慮深くいようと努めながら発言している人もいたし、どういう立場をとったらいいかわからないながらもとりあえず一言触れておくという感じの人もいた。

 当時は文章を公開したところで信じてもらえないかもと思っていたから、内容を受け止めてくれた人がたくさんいたことにまずすごく助けられました。同時に、被害者がいる問題について、状況や感情の整理がまったくできていない状態で言及するのはあまりに危険だと思った。問題に即座に反応すること以上に、まずは自分が冷静になることが大事。

 

——いざ身近なところで問題が発覚すると、リトマス試験紙になりますよね。

 

安西 なります! 自分以外の問題についても思慮深くありたい。

 

——係争中のことって話すことがタブー化されてしまいがちで、「係争中の案件につきお答えできません」みたいな回答ってよくありますが、わたしは係争中だからこそ発されるべき情報もあるんじゃないかと考えています。なので、ここでは「係争中の案件につき喋りまくります」ってことで。

 普通、いざハラスメントと戦うとなっても道筋が見えませんよね。裁判の結果をポンと出されるだけでなく、そこに行き着くまでにどのような道のりがあったのだろう? というところにわたしは関心があるので、そういうことを共有しつつ、今日は話せたらいいなと思います。

 

安西 わたしも最初、告発文を出したはいいものの、その後どういうふうに解決するものなのかが全然わからなくて困りました。

 告発文の公開だけでは解決にはならないし、でも彼らと和解できるとも思えないし、区切りをつけるためにどうすればいいんだろう? と思って他の事例を調べようとしたんですけど、全然思い当たらなくて、殆ど見付けられなかった。

 それって、いままで自分がこうした問題に無関心に生きてきたってことだと思う。そして、もともとのわたしと同じくらいの無関心のレベルにいる人って他にもたくさんいると思う。専門家による理論や関心を持つ人の知識はたくさん積み上がっているから、それに続いて、関心を持っていなかった層の底上げをしていくことも重要だと思います。 

 

——ハラスメントというのはいつ誰の身にも起こりうる/起こしうる問題なんだ、ということは、自分も自覚しなきゃいけないし、みんなも巻き込んで一緒に考えていきたいですね。 

 

 

 

 

② 告発