大学のハラスメントを看過しない会、5年間の活動の終わりに

大学のハラスメントを看過しない会は、2020年11月の活動開始から約5年にわたり、早稲田大学におけるハラスメント事案の真相究明と、大学の管理・説明責任を問うために活動を続けてまいりました。この度、2026年3月をもって、本会としての組織的な活動を終了することとなりました。

   

活動終了の背景

そもそも本会の活動目的は、代表・深沢レナ(原告A)が受けた甚大な人格権侵害について事実関係を明らかにし、教育機関としての大学が然るべき責任を果たすよう求めることでした。しかし、4年にわたる裁判を経て、一部の不法行為は認められたものの、入試選考の不透明な経緯や構造的な「囲い込み(エントラップメント)」の実態など、多くの核心的部分は裁判所によっても等閑視されたまま終結しました。本来の目的を十分に果たせないまま幕を閉じることに対し、深い悔しさを禁じ得ません。

本会を立ち上げた当初、わたし(深沢)を突き動かしていたのは、自分の姪っ子やあとに続く学生たちが安全に学べる環境を作るのは「大人の義務」だという、強い責任感でした。同時に、わたしの被害回復だけを目的にしても誰も味方してくれないのではないかという不安もあり、自身の回復よりも「再発防止」や「社会のため」という看板を掲げ、自らを「完璧な被害者」として律し、無償で活動を続けてきてしまった側面もありました。

しかし、5年に及ぶ活動のなかで、わたしが直面したのは以下の現実です。

  • 責任の所在の不透明さ:本来、権力の濫用を防ぎ、過去の被害に学び、安全な場を作る責任があるのは、大学の中にいて対価を得ている教員たちです。すでに大学とは縁のない一個人が、心身を削りながらこの役割を引き受け続けることに、強い疑問を抱かざるを得なくなりました。
  • 司法と沈黙の壁:4年の裁判は、人格を根こそぎ破壊するほど過酷なものでした。一審判決が出るまで「係争中だから」と沈黙を守り、判決が出てもなお、現代文芸コースからは一言の謝罪もありませんでした。名前を列挙してようやく人々が口を開き始めるという状況に、自分が存在していないかのような深いショックを受けました。
  • 文芸界での孤立:性暴力を告発したサバイバーとしてではなく、文芸界に「厄介な問題を持ち込んだ人」として距離を置かれていると感じる局面が何度もありました。本来問われるべきはハラスメントそのもののはずが、いつの間にか問題を指摘した側が「扱いにくい存在」に変質させられてしまう構図に、絶望を禁じ得ませんでした。

また、活動の過程では、大きな影響力を持つ文学者による二次加害的な言説が公に発信されました。それが被害当事者に対する社会的な不信や孤立を深め、事実解明に向けた建設的な議論を困難にする大きな要因となりました。

さらに、慢性的な人員・資金不足が続くなか、深刻な心身の不調やPTSDを抱える当事者が、安全かつ尊厳を保って活動を継続できる条件は、この社会において十分に整っているとは言えませんでした。とりわけ、PTSDに特化した専門的な治療はきわめて高額であり、活動による心身の摩耗と経済的困窮が限界に達したことも、活動継続を阻む大きな壁となりました。

こうした多層的な限界に直面するなかで、「大学のハラスメント」という根深い構造的問いに対し、この会として、あるいは私(深沢)個人として、これ以上成し遂げられることはないのではないかという思いが次第に強まり、いま、活動を終える決断をいたしました。

  

「公共財」としての記録と今後について

わたしは自分が選んだ道に後悔はありません。しかし、他の被害者の方に同じ道を勧めることは、決してできません。それほどまでに、この社会で声を上げることの代償は大きすぎます。

それでも、わたしたちが血を吐くような思いで積み上げてきた裁判記録や「声」のアーカイブは、未来の誰かのための「公共財」です。これらは可能な限り形を保って残し、必要とする誰かの盾となることを願っています。

   

「Across Beings Collective」への移行

性暴力やハラスメントの根底にある支配構造を、動物倫理やフェミニズムなど他の社会問題との交差性(インターセクショナリティ)の中で捉え直す試みは、看過しない会の活動を通じて得られた新たな指針です。

これらの「学びと実践」は、看過しない会とは別の枠組みであるプラットフォーム「Across Beings Collective(ABC)」へと移行します。2026年4月からは、この新たなコレクティブにおいて、境界を越えた対話と発信を継続してまいります。

*さしあたっては、ABCとしての発信は、既存の看過しない会note、YouTubeを名称変更して行っていきます。

   

ポッドキャスト〈もやのみ〉企画:「点を線にするために」プロジェクト

本会の活動とは別に、代表の深沢と睡蓮みどり氏(俳優・文筆家)によるユニット〈もやのみ〉主催のプロジェクト「点を線にするために」が、2026年春より始動しています。これはサバイバーの声を一度きりで消費させないために、対話を記録し、社会構造を可視化することを目指す企画です。

これまでに、第1回「わたしたちの見てきた二次加害について」、第2回「告発のその後をわたしたちはどう生きてきたか」をテーマに対面イベントを開催しました 。いずれも俳優・アクティビストの石川優実氏をゲストに招き、被害者が直面する構造的課題を浮き彫りにする活動を続けています。

〈もやのみ〉https://note.com/moyanomi_1111

   

活動の結実としての書籍刊行

本会での5年間の歩みと、そこから得た「学びと実践」の記録、および「生き延びてきた軌跡」は、以下の書籍として形にすることができました。会としての活動は終了いたしますが、私たちの発してきた言葉が、今後も必要とする誰かのもとへ届き続けることを願っています。

・深沢レナ・生田武志・栗田隆子編著『あなたと考えたい動物たちと社会のこと』(現代書館、2026年2月刊)

・深沢レナ第三詩集『海を聴く』(港の人、2026年3月刊)

    

最後に

2026年3月末で、本サイトの活動は停止いたしましたが、新たなプラットフォームが整うまでの間、これまでのSNSアカウント等を通じて、時折お知らせをさせていただく予定です。

沈黙を強いられてきた「声」に耳を傾け、これまで活動を支えてくださったすべての皆様に、心より感謝を申し上げます。

  

2026年4月 大学のハラスメントを看過しない会

代表 深沢レナ