訴訟を起こされて

 

——裁判のこと聞いていきますね。安西さんの場合、まず名誉毀損で訴えられましたよね。(*訴訟1) 被害を受けた上に、告発したらそれを訴えられて、どう感じましたか?

 

安西 その時点ではわたしの手元にまだ訴状が到着してなくて請求の原因も内容もわからないし、リリースには調査したとか不法行為があったとか明らかな嘘が書かれてるし、なにからどう対処すれば良いのか全然わからなくて呆然としました。

 彼らはこのリリースの1ヶ月半前まではわたしに対して繰り返し謝罪をして和解交渉を持ちかけてきていて、誠意が見られずこちらから打ち切ってはいたとはいえ、わたしとしては気力を振り絞って対応していたので、またしても最悪な形で裏切られたことにただただ悲しくなった。話し合いに応じてた自分が愚かに思えてつらかった。

 そういう感情でいっぱいいっぱいで、訴訟費用や弁護士等、現実的な問題について対処しなくちゃと思えるほど余裕はなかったです。

 

——いきなり訴えられたら怖いですよね。

 

関 訴訟ということになると、せっかく勇気をだして告発した人も「よくわからないからやめとこう」って引いちゃう心理もあると思うし。

 

安西 「どうしよう‥」と思ってたら、それまで相談していた知人やアーティストがすぐに連絡をくれて、問題対応の専門家に話を繋いでくれたり、紹介してもらった弁護士との面談に赴いてくれたりと、話が進んでいくように取り計らってくれました。そういうのがなかったらどうなってたんだろ。

 

——「告発したら訴訟起こされちゃうんだ」と思うと、これから声をあげようとしている人も萎縮しちゃいますよね。

 

安西 「訴訟を起こしたということはそれだけの根拠があるのだろう」と考える人もいるしね。リリースには「調査の結果、安西側に不法行為となりうる複数の問題行為を確認したため」ということが書いてあったけど、今までの訴訟の中で、その「問題行為」が何かということについては一度も説明されてない。

 

――そういうふうに公的な文書で書かれちゃうと、読んだ人たちはなんとなく「安西さんに問題行為があったんだなー」と思ってしまう可能性がありますよね。

 

安西 そう。彼らには何の根拠もなかったけど、訴訟となればみんな見方を変えるだろうし、怖気付いてわたしから和解交渉を求めてくるだろうと思ってたみたい。実際、彼らが始めた裁判なのに、裁判の過程でも彼らの方から何度も和解を求められました。意味不明だけどそういう悪質な人もいる。 

 

 

 

訴える側、訴えられる側

 

——その後、2021年の2月、安西さんからC社を労働訴訟として訴えましたよね(*訴訟2)。自分から訴えを起こそうとしたきっかけは何かあったんですか?

 

安西 告発文の公開後、彼らとの和解交渉も決裂した時点で、問題に決着をつける方法として訴訟という選択肢はありました。でも、信頼できる弁護士ってどう探せばいいのかわからないし、探し回る気力がないくらい疲弊していたので、自分からは踏み切れずにいたんです。

 彼らの方から名誉毀損で訴訟提起を起こされてわたしが窮地に立たされたことで、さっきも話したように知人やアーティストらが専門家に話を繋いでくれました。その先で、今代理人をお願いしている山口元一弁護士を紹介してもらい、名誉毀損訴訟の代理人を引き受けてもらえることになりました。

 山口弁護士へは、名誉毀損訴訟のためにすべての事情の共有した段階で、こうなった以上は私からも訴訟を起こして決着をつけたいと伝え、その意向をもとに山口弁護士が経緯や証拠を精査した上で、労働訴訟という具体的な形を提案してくれました。

 

——あ、そうだったんだ。

 

安西 向こうから起こされた訴訟って、どれだけ理不尽な内容でも訴えられた以上は対応するしかない。勝訴したところで何ももらえないのに、弁護士費用や手間は散々かかる。であれば、こちらも本来の問題について訴えるのがフェアだろう、ということで。

 

——訴えられる側と訴える側の裁判だと、気の持ちようは違いますか?

 

安西 訴訟に関しては弁護士が主導してくれるので、わたし自身の取り組み方には差はないかも。どちらの訴訟においても、山口弁護士が事実関係やわたしの意向をしっかり聴取して整理した上で主張を構成してくれます。

 

——わたしと安西さんって、裁判のやり方結構違いますよね。

 

安西 違いますね。

 

——これはわたしが訴える側だからか、加害者や大学が無知だからか、よくわかんないんですけど、わたしの側が「ハラスメントとはなにか」というところから説明しないといけないんですよね。「なんで元学生のわたしが大学相手にハラスメントの解説してんだ?」って感じ。

 あと、わたしの場合、証拠集めなどの作業はほとんど自分でやっていて。テレビドラマで、弁護士がいろんな関係者のところに歩いて行って・・・みたいシーンあるじゃないですか。

 

安西 うん。「聞き込み」みたいな?

 

——ああいうのは全部わたしがやってます。「陳述書書いてもらえる?」みたいな関係者とのやりとりは全部自分。

 

安西 大変ですよね。本来であれば、その負担は被害側当事者が背負わなくてもいい状況になってほしい。

 当事者からの依頼だとあんまり話してくれない人もいませんか? わたしの事件の場合、弁護士からの依頼だからこそ安心して話してくれている人もいるように思うので。単純な労力ってことだけじゃなく、そういう意味でも、自分で集めるのって大変そう。

 

——たしかに。ただ(これはわたしの件に限った話なのでオススメはしないんですが)わたし自身は陳述書集めを自分でやってよかったなと思っていて。集めた証言というのは、同級生や先輩といった、もともと仲良くしてた人たちだったんですけど、事件の告発してから結構関係が切れちゃってたんですよね。わたしの場合、匿名告発だし、表向きにはわたしだと分からない形で発信してたから、逆にわたしとどういうふうに接していいのかわからない人が多かったみたいで。

 それが、陳述書を口実にしてわたしの方から連絡することになって、「連絡くれてよかった」と言われることが多かった。在学当時まわりのみんなからはどういう風に見えていたのかも直接聞けたし、事件が重層的に見えてきたんです。もちろんうまくいかなかった対話とかもあるんですけど、わたしはこの作業はやってよかったなと思う。

 

安西 すごい!

 

――逆にそこでいきなり弁護士から連絡入ったら・・・

 

安西 身構えてしまうかもですね。

 

 

 

裁判をどうやって継続していくか

 

——安西さんはどうやって裁判と仕事を両立させてますか?

 

安西 わたしは最近まで仕事してなかったです。今は裁判が進んできて、弁護士が事情をばっちり把握しているので、訴訟書面が追加で必要になっても、すでに把握している事情を整理して弁護士がすべて書いてくれるので、わたしはそれをチェックするくらいです。仕事しながら訴訟の準備をするのは、少なくともわたしには不可能。気力的にも、時間的にも。

 

——わたしも仕事をやめて実家に帰りました。

 

安西 あ、そうなんですね。負担かかりすぎですよね。

 

——これフルで働いてたら無理。

 

安西 ね。

 

——どうやって裁判のモチベーションを保ってますか?

 

安西 裁判は時間がかかってもどかしいとは思うものの、その結果として公正な判決がなされると信じているので、判決が出るのが楽しみで、モチベーションを保てます。今まで「裁判の結果が出るまでは何も言えない」と言ってた人も、その結果を受けて各々の判断を持てるようになるはずだからね。こう思えるのは裁判で負けるかもという不安がないからですね。下手したら被害者側が負けるかも、という訴訟も少なからずあるはずで、そういう被害者の負担を思うとつらい。

 レナさんの裁判では、向こうから和解の提案ってされましたか?

 

——わたしの場合、裁判所から和解を勧められていました。わたしは大学相手と加害者相手と2つ訴えていて、加害者との訴訟は、向こうから返ってきた書面読んでも、完全に開き直られてたので、和解は不可能だと答えました。わたしの加害者も告発直後はメディアでも謝っていたし、謝罪文とか送ってきてたんですけど、しばらくしてから態度が一変したんですよね。

 大学との方は、あまりにもマンパワーが違いすぎて、わたしも疲れてしまって、和解を受けようかなと、ちょっと前までは思ってました。

 でも早稲田に文書開示だとかいろんな請求しても、すげなく却下されてばかりで困ってたんです。それでハラスメントの専門家の人たちに、「和解になりそうなんですけどー」って相談したら、「それ和解できる内容じゃないでしょ!」って目を覚まさせられて(笑)。早稲田って、わたしの事件以降もたくさん事件が起こっているし、「こりゃ和解しちゃダメだわ」と思い直しました。

 

安西 なるほど。訴訟を続けていくと、相手が書面を出すたびに一方的な言い分を目の当たりにして傷つくじゃないですか。それで続けていく気力がどんどん削がれていって和解するというパターンも中にはあるんだろうと思う。

 

——裁判って言葉でずっと殴られ続ける感じですからね。和解を選ぶのも全然ありだと思います。

 

 

 

書類作成は一人でやると危険

 

安西 わたしたちも書面を見るたびにガックリしてます。はあ……ってなります(笑)

 

——なりますよね。そういうときどうしてます?

 

安西 支援団体のみんなとしゃべる。「彼らほんとやばいね〜」って。自分一人で書面見てたら「わたしがおかしいの?」ってなってくるので危ない。

 

——ちゃんと相手の意見に耳を傾ける人ほど、「わたしにも悪いところがあったのかも?」と、立ち止まって不安になってしまいますよね。そこはやはり積極的に支えてくれる周囲の存在が必要。

 

 わたし的にはHPで書面を公開しているのがよかったと思ってます。継続的に双方の訴訟書面を読んでくれる人たちがいて、その人たちとたまに会うと、「(C社の主張は)本当おかしいっすよね!」と言ってくれるから、気持ちが楽になるし、HPを更新するだけで進んでいっていると感じられてます。

 

安西 見てる人は見てるって思えるよね。相手と自分と裁判所みたいな閉じた関係の中だけにいるよりも気が軽くなる。

 

——よくよく考えると、裁判って原則公開のはずなのに、実際にやってみるとすごく閉鎖的な世界ですよね。書面を作るにしても、ひたすら孤独。

 

安西 書面作ってる時っていろいろ考えてしまって落ち込むじゃないですか。そういう時に一人でいるのって危険だから、レナさんのことも心配です。

 

——やばい。陳述書の作成はやばい

 

安西 やばいですよね。全部出来事をふりかえらなくちゃいけないし。わたしは弁護士等の他者に事情を共有するにあたって「何月何日に何があった」という経緯をまとめなきゃいけないのに、証拠のLINEを見返すことがずっとできなくて、一ヶ月くらい毎日「やらなきゃ」とPCに向かっていたけど何も進まなかった。その時は結局、自力では無理なのでと知人のアーティストに協力を頼んで、インタビューみたいに質問してもらってわたしが答え、その内容を時系列に沿ってまとめてもらうという方法で作成しました。

  

——そのやり方いいですね。一人で淡々と過去を振り返る作業をしてると、その過去の時間に感覚が戻ってしまうからフラッシュバックが起こったりして危険なんですよね。

 

安西 一緒にやりましょう。

 

(※ その後、なんとか陳述書は無事提出できました。こちらから読めます) 

 

 

 

 

 

⑤ これから